2018年3月に東京都目黒区で父親からの度重なる虐待によって、船戸結愛ちゃん(当時5歳)が死亡する事件が発生。
これはニュースでも大きく報道され、改めて児童虐待の実態と児童相談所のさまざまな問題が指摘されました。
今回一般の人がなかなか知る機会のない児童相談所の実態と問題点を取り上げたいと思います☟
児童相談所について取材すると書いたら、たくさんの方から反応が。「児童相談所の具体的な対応や一時保護制度の仕組みについてほとんど知らない保育者や教師、保健師がほとんど」というコメントをいただき、そうだよね、やっぱり知らせる価値はあるよね、と思いました。
— 上條まゆみ (@mayon660818) March 6, 2022
私自身や家族は児童相談所のお世話になった事は今までありませんが、この児童虐待問題は行政や国だけでは対処しきれていないのが現状です。
民間の力や地域の協力も含めて、全ての人が子供を守るんだという認識を持つ事が大切だと感じています。
日頃暮らしていて、どこかの部屋から子供が異常に泣き叫ぶのが聞こえてきたりなど、もしかしたら虐待かも・・・と思ったあなた!
ちなみに2019年度から通話料は無料になっているようです。
これは一般の方が通話開始してから児童相談所に繋がるまでに1~2分かかる上、通話料が発生する旨のガイダンスが流れた途端電話を切ってしまうケースが相当数あるとの理由からでした。
虐待が疑われるケースで通報するのは私たち一般国民にとって義務とされていますが、かけがいのない命を守る為に無料電話による通報制度があると言う事を多くの方にぜひ知って頂きたいです。
なお今回参考にした書籍はこちらになります☟
この著者は日本全国の実際の児童相談所及び併設されている一時保護所を実際に訪問して、関係者100人以上にインタビューされています。
その内容を元に書かれていますので、現場の実態と問題点が明確に分かる本になっています。
児童相談所の組織構成
児童相談所は、都道府県及び政令指定都市に最低1か所以上設置するようになっています。
その組織形態は一律ではありませんが、東京都の場合は次のような組織になっています。
一般的な子供が居る家庭で最も関わる可能性が高い部署は、児童福祉係(赤字)です。
児童の福祉全般に関する相談・調査・指導業務を行っており、家庭内の子供に関するあらゆる悩み事に対して受け付けています。
児童福祉司や児童心理司など専門のスタッフに対しても相談できますので、トラブルを抱えている親にとっては本来は児童相談所は頼りになるべき存在なはずです。
しかし昨今、児童虐待事件が発生する度に児童相談所を含む関係機関の連携不足や不手際が度々指摘されています。
このような状態ですと、育児に関する悩みやトラブルを安心して相談できる体制が整っているのかが相当疑問になってきます。
ではなぜ社会的問題になっている児童虐待の対処について、同じような事が児童相談所で繰り返されてしまうのでしょうか。
その問題点と原因を挙げてみます。
児童相談所の問題点と原因
保護人員と一時保護期間の増加で、職員の質と量共に不足している
親からの虐待や育児放棄などで保護される子供の人員は、年々増加しています。
これは通報制度が社会一般に認知されてきたという事もありますし、疑わしきは保護しようという制度上の方針が変わった理由もあります。
核家族化の影響もあるでしょうし、共働き家庭の増加で親の負担が増えているという時代背景もあるでしょう。
その子供の保護人員の増加に対して、一時保護所と呼ばれる施設の平均所在日数もかなり長期化しています☟
児童相談所における一時保護所の現状と問題点とは
一般の方にとって児童相談所の存在自体は知っていても、併設されている事が多い一時保護所の実態はほとんど知られていないのではないでしょうか。 この一時保護所は、虐待や非行・親の死亡などで児童相談所が保護した子供を一時的に保護し子供の処遇を決めるまでの生活の場となる施設です。 国のルールでは、一時保護所の入所期間は2か月を超えないようにとされています。 …
一時保護所は、児童相談所に保護されてから親元に帰るか別の施設で暮らすかの判断中に一時的に子供が過ごす所です。
一般的に児童相談所に併設されていますが、全ての児童相談所に一時保護所がある訳ではありません。
一時保護所の実態は児童相談所以上に情報がほとんど外部に出てこないのですが、過ごした経験のある子供や大人に話を聞くとがんじがらめの生活を強いられるそうです。
その一時保護所の平均所在日数が長期化しているという事は、児童相談所として子供を受け入れる体制が整っていなかったり悪化しているという表れです。
悪化の理由を挙げてみますと
虐待相談対応件数は激増、児童相談所数や児童福祉司の人員増加でも追いついていない | 児童虐待対応相談件数…平成20年度(1101件)→平成29年(113、778件) |
児童相談所の職員一人が抱えている業務量が多すぎる | 概ね一人当たり100程の案件を抱えている |
児童福祉司自体の教育やサポートが追いついていない | 人数自体は増えているが、それに伴う専門性や実務経験が不足した中で膨大な対応を迫られている |
行政の組織運営を最優先した結果のベテラン職員の不足 | 数年単位で職員の配置換えが行われている児童相談所は、経験が豊富なベテラン職員が不足。行政の縦割り組織優先で、本当の意味での子供のサポート体制が整っていない |
児童虐待対応相談件数は10年前と比較して約20倍以上に激増していますが、児童相談所施設数や児童福祉司の増加ペースでも全く追いついていません。
その為慢性的な人手不足が常態化して一つの案件に当てられる時間が少なくなり、深刻な案件が見過ごされてしまうのです。
また児童福祉司自体は年々増員されていますが、人員を増やす事だけにとらわれてしまって指導力の向上や更なる専門知識の習得を身につける時間がほとんど無いのが現状でしょう。
また行政の縦割り組織の弊害も残念ながら残っているようです。
現在全国での児童福祉司の勤続年数は4年程度であり、その後は行政の別の職や部署に異動になる事も多いようです。
もっと経験年数を積んだベテラン職員を優遇して運営できる児童相談所が増える事を期待します。
一時保護所の平均所在日数は、都道府県や政令指定都市によって相当の差がある
先ほど一時保護所の平均所在日数が長期化している事は、子どもの受け入れ態勢が整っていない事だと指摘しました。
実はこの平均所在日数は、都道府県や政令指定都市によって相当の差があるのです。
グラフでは政令指定都市を中心にまとめていますが、関東の政令指定都市では概ね40日を超えている所がほとんどです。
平均所在日数が全国で一番短い鳥取県では8.4日ですから、いかに児童相談所の一時保護所の受け入れ態勢に差があるのかが分かると思います。
見ず知らずの一時保護所に連れていかれ、周りが何も分からない状況の中で不便な生活を強いられる苦痛は想像以上に過酷なものでしょう。
それが1ヶ月以上に及んだ場合、ますます事態の悪化を招く可能性が高くなると思います。
一時保護で子供の命は守られるかもしれませんが、あまりにも一時保護所の環境が良くない場合が多い為、結果的に保護された子供が親元の方がまし!と判断してしまい虐待がくりかえされてしまう実態もあるのです。
保護された場所や児童相談所によって、その後の子供の人生さえ左右してしまうような状況なのです。
ちなみになぜここまで平均所在日数に差が出るのかは、さまざまな要因が関係しています。
単純に子供の受け入れ人員が多い都会における問題とも言えますが、人の要因も大きいと参考書籍の著者は指摘しています。
どれくらいの児童福祉司が関与しているか、児童相談所内での部門間の連携、外部機関との連携など多岐に渡ります。
結局は子供が安らかに時間を過ごせる一時保護所程、一時保護期間が短い傾向があるようです。
そういった児童相談所では、「子供の権利を第一に」という考えが、組織の中心的な理念となっているようです。
なんでもかんでも児童相談所任せの社会背景が悪循環を生み出している
ニュースなどで子供の虐待死事件が報道されると、大半の場合児童相談所に非難や疑問の矛先が向けられます。
初期対応に問題はなかったのか?なぜ一時保護出来なかったのか?通報はあったのか?等々。
児童相談所の実態は、虐待相談対応件数の激増と一時保護受入人員数の増加でパンク状態なのです。
今以上の手厚いサポートを望むのは、現状では無理なのです。
その無理な現状の上、都道府県や政令指定都市によって受け入れ態勢に相当の開きがあるのです。
ちなみに冒頭で目黒区での幼児虐待事件について言及しましたが、この事例でも一時保護の結果親元に返される処置がなされています。
一時保護所がもはや機能していない典型的な例となってしまいました。
このようなはっきり言ってしまえば機能不全に陥っている児童相談所にこれ以上何を求めるのでしょうか。
この解決案に関しては、著書の内容を最期にご紹介したいと思います。
一時保護の増加の背景には貧困と虐待の関係がある
近年日本における子供の貧困率の高さが問題になっていますが、この貧困と虐待には大きく関係があります。
グラフでも紹介した通り児童虐待相談対応件数は激増していますが、これは家庭の貧困と直結しています。
ここで一時保護所に入所した子供の親権者の状況を著書からご紹介します。
各項目の数字は割合(%)となっています。
著書で紹介している項目を一部抜粋していますが、全国平均とかなり乖離した家庭環境となっています。
このように環境的に追い込まれている家庭の子供が虐待を受けるケースが多い事が分かります。
これは家庭問題が子供にぶつけられているとも言える事で、このような事案に児童相談所が積極的に関与する事は実際難しいでしょう。
行政や国レベルでの対策が必要不可欠なのですが、日本では子供に対する親の権利(親権)が相当強いので、行政や国が積極的に介入する事も難しい状況なのです。
虐待と疑われるケースでも親が躾と主張してきた場合、児童相談所もそれ以上家庭に容易に踏み込めないのが実情です。
最近ではこの懲戒権を見なおす動きも出ているようですが、2019年6月時点で具体的な内容はまだ決まっていません☟
民法822条の親権者権利「懲戒権」は何が問題なのか
2019年6月に、親による子どもへの体罰を禁止し児童相談所の体制を強化する指針を含めた改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が参院本会議で可決成立されました。 一部を除いて2020年4月から施行されます。 最近になり、「親権」や「懲戒権」と言った言葉が頻繁にニュース番組などで取り上げられるようになってきました。 …
また子供の保護も当然の事ながら、社会的に追い込まれている親に対するサポートも同時に必要なのです。
現状の一時保護は、半分強の子供は家庭に戻ります。
戻った所で家庭環境がこのような状況ですと、また虐待が繰り返されてしまう可能性が高いのです。
今後の児童相談所に期待する事
今まで児童相談所の問題点をいろいろ挙げてみましたが、では子供の為に何をどう改善すればいいのでしょうか。
その提案内容をご紹介します。
外部機関との連携
最初に子供の異変に気付く事が出来るのは、児童相談所ではありません。
一番最初に気付く事が出来るのが学校です。
家庭の次に長く時間を過ごすのが学校ですから、虐待を受けている場合何かの異変に気付く事が出来る最初の機会なのです。
また虐待で怪我をした場合病院に行くことも多いでしょうから、そういう医療機関との連携も欠かせません。
通報制度により一時保護した子供の親が激高して学校や児童相談所に乗り込んでくる事案もあるようです。
それに対する処置として警察との連携も必要になります。
このように子供の虐待問題は、児童相談所に任せきりだけは到底解決できる問題ではない事が分かると思います。
このように外部機関と連携を密にするには、情報の共有化や国や行政の制度作りが欠かせません。
一時保護所の平均所在日数が全国一少ない鳥取県の場合、このような外部機関との連携体制が整っている証拠です。
更に鳥取県には「鳥取こども学園」という全国トップクラスの受け入れ施設があります。
2016年には児童養護施設の歴史上初となる、高校卒業直後に海外の大学へ留学する学生を排出しました。
そのようなすばらしい取り組みをしている所も少なからずあるという事に、未来への希望があります。
全国の児童相談所の情報ネットワークの構築とビッグデータの有効利用
これは私独自の提案です。
これだけ社会的にIT化が進んだ今、情報の価値や重要性はどんどん高まっています。
児童相談所には今まで相談業務や一時保護によって蓄積された膨大な情報やノウハウがあります。
この貴重な情報を、ITを活用する事によって事前予防やあらゆるサポートに生かせないかというのが私の提案です。
医療分野でも、画像診断や病名候補などでAIを活用する動きが広まりつつあります。
慢性的な人手不足が常態化している児童相談所で、このITを活用しない理由は何一つ無いと思います。
もちろん個人情報の取扱に細心の注意が必要ですし、組織内における新たな人材の育成も必要になるでしょう。
おカネも時間もどれくらい必要となるか分かりません。
しかし全ては日本の将来を担う子供の為なのです。
【2020年1月24日追記】
今朝の新聞に、人工知能(AI)を活用して、虐待の恐れがある子どもを早期に救おうとする試みが始まっている記事がありました。
AIが過去の虐待事例のデータを分析してリスクを予想、保護の必要があるかどうかの判断を支援する仕組みだそうです。
三重・広島両県が導入を検討、厚生労働省も有識者による研究を進めるとの事。
私も指摘した内容なのですが、出来るだけ早く全国展開してもらいたいです。
まとめ
児童相談所は育児をしている親や家族だけでなく、学校・病院・警察・行政などあらゆる機関が連携しています。
その連携がどのくらい頻繁に綿密に繫がっているかが、SOSを出している子供を救えるかに直結してきます。
今はその児童相談所や懸命に働いている職員自体がSOSを出している時期なのではないでしょうか。
今後も虐待相談対応件数は増えていく事が予想されています。
全ては子供の為に何が出来るのか、私たち一人一人が身近な問題として考えていく社会を目指していきたいですね。