児童相談所における一時保護所の現状と問題点とは

一般の方にとって児童相談所の存在自体は知っていても、併設されている事が多い一時保護所の実態はほとんど知られていないのではないでしょうか。

この一時保護所は、虐待や非行・親の死亡などで児童相談所が保護した子供を一時的に保護し子供の処遇を決めるまでの生活の場となる施設です。

国のルールでは、一時保護所の入所期間は2か月を超えないようにとされています。

しかし保護された経験のある子供に話を聞くと、一時保護所の実態は刑務所のようだったという声が多数あがっています。

本来子供を守るはずの施設が、なぜこのような事態になっているのでしょうか。

今回は児童相談所の一時保護所の現状と問題点を取り上げたいと思います。



なお児童相談所の現状と問題に関しても取り上げていますので、ぜひこちらもどうぞ!

児童虐待事件が発生する度に叩かれる児童相談所の問題点とは

2018年3月に東京都目黒区で父親からの度重なる虐待によって、船戸結愛ちゃん(当時5歳)が死亡する事件が発生。 これはニュースでも大きく報道され、改めて児童虐待の実態と児童相談所のさまざまな問題が指摘されました。 今回一般の人がなかなか知る機会のない児童相談所の実態と問題点を取り上げたいと思います。 …


なお今回参考にした書籍はこちらになります。

 

ルポ児童相談所

「ルポ 児童相談所~一時保護所から考える子ども支援」 慎泰俊(しん・てじゅん)著 2017年1月10日第1刷発行

この著者は日本全国の実際の児童相談所及び併設されている一時保護所を実際に訪問して、関係者100人以上にインタビューされています。

その内容を元に書かれていますので、現場の実態と問題点が明確に分かる本になっています。

 

ちなみに最近1年間で一時保護される子供は約2万人となっています。


子どもが一時保護されるまでの流れ

児童相談所は、児童福祉法に基づいて都道府県や政令指定都市に設置されている行政機関です。

その児童福祉法には一時保護に関する条文もあります。

ただし最終的に一時保護を実行するかしないかは児童相談所内での会議で検討されます。

そして児童相談所の所長の判断にて一時保護の実施が決定されます。

学校、医療機関、警察、住民、家族、本人からの通報や相談を児童相談所が受ける虐待対応相談件数:平成29年は113、778件
児童相談所の会議で一時保護の検討厚労省からの「子ども虐待対応の手引き」に基づいて検討される

リスクアセスメントシートの利用や情報収集、直接子供に会って確認する事を基本とする
厚労省の「子ども虐待対応の手引き」より一時保護ページへ

 

一時保護の実施児童相談所の職権で実施、親の意向は関係なし。時には裁判所の同意を得て家の扉を無理やり開けたり、車中から子どもを保護する事もある

原則的には親へ告知して同意を求めるとされているが、法的には保護者の意思を確認する必要はないとされる

一時保護所での生活子どもや保護者に一時保護の理由や目的、期間などが告知されて同意を得るとされているが、実際どこまで実施されているか不明

持ち物の持ち込みも基本的に不可

他の子どもたちとの共同生活になるのでストレスやトラブルも多い。入所期間が長くなればなるほどその傾向が強くなる。

厚労省から一時保護に関する指針のようなものはありますが、実際は児童相談所の判断に基づいて行われるケースも多いようです。

一時保護される子供の家庭は社会的に追い詰められている場合が多く、そのような状況の中で児童相談所と保護者や子供が冷静に話が出来ない場合も多いのです。

ネットなどで「子供を児童相談所に誘拐された」等の情報が出回ってしまうのも、こういう一時保護の実態があるからでしょう。

 

法的には親の同意無しで子供を一時保護する事は可能になっており、児童相談所の職権がいかに強くて重い判断であるという事です。

一時保護所の実態と問題

平均所在日数の長期化により、一時保護所の受け入れ態勢が整っていない

児童相談所保護人員と平均所在日数グラフは一時保護所の平均所在日数です。

年々所在日数は長期化の傾向にあるのですが、その背景には1日当たりの保護人員の増加が大きく関係しています。

それらの増加割合に対して、一時保護所の施設増加や職員の増員は全く追いついていません

その結果、一時保護所での生活環境は悪くなる一方なのです。

ただでさえ子供の自由が著しく規制される生活環境で、1ヶ月近くも見ず知らずの土地で知らない人と過ごすストレスは想像以上のものでしょう。

一時保護所が逆に子供を追い込んでしまっている状況があるのです。


さまざまなタイプの子どもに対応できる仕組みや職員が不足

自由が制限されている児童相談所によって一時保護される子供は、ただでさえ相当のストレスや問題を抱えている場合が多いのです。

虐待・非行・精神障害・発達障害など、専門医でないと対処できないケースも相当数あるでしょう。

そのような子供に対して、的確にサポートできる仕組みや職員の数が圧倒的に不足しています。

その結果一時保護所内でのトラブルを避けるのが最優先されて、厳しい規律や生活環境になってしまうのです。

携帯電話の持ち込みは当然禁止ですし、子ども同士の交流も厳しく制限されます。

何かトラブルを起こしたら、別室に隔離されたり職員から厳しく叱責されます。

とにかく職員から常に監視されている状況下の元で、保護された子供が非常に窮屈な生活を強いられます。

 

しかしこの一時保護所の生活環境は、全国でかなりの差があるようです。

一時保護所平均所在日数

グラフを見ても分かる通り、関東の政令指定都市では一時保護所の平均所在日数が40日を超えている所が多いのが実情です。

受入人員自体が多いという理由が大きいのですが、その結果一時保護所での子供の処遇がどんどん悪化しているという悪循環が続いています。

児童相談所に保護された地域によって、子供の生活環境が大きく左右される事態になっているのです。


 


一時保護後の預け入れ先が少なすぎる現状

一時保護所というのは文字通り一時的な措置にすぎず、子供を保護した後最終的にどのような措置をするのかが重要になってきます。

現状の措置として大きく3パターンに分かれます。

親元に戻る保護された子供の内、過半数の子どもは親元に戻る
児童養護施設や乳児院など社会的擁護施設へ一時保護された約4割の子供が入っている
里親へ日本での比率は海外と比較してかなり少ない。

理由として、社会的な認知度が低い事や親が里親に預けられるのを拒否したり、親の同意なしに里親委託ができないなど、親権が強い事が挙げられる

虐待や非行などで一時保護されたにも関わらず、その後過半数の子どもが親元に戻るというのが現状です。

先ほどもご紹介した通り一時保護された子供の家庭環境は、恵まれていない状況であることも多いのです。

そういう家庭や親に対しての社会的サポートや支援が必要不可欠なのですが、そういう支援はなかなか行き届いていません。

結局一時保護された当時の環境と全く同じ親元に子供は戻る事になり、再び虐待やトラブルが発生する可能性が高くなってしまうのです。

しかも一時保護所でのすさんだ生活環環境によって、子供の精神状態は余計悪化している場合も多いのです。

 

一時保護所でのつらい生活をするくらいなら、親に殴られた方がましと子供が判断してしまうケースもあるそうです。

 

では親元に戻る以外のケースはどうでしょうか。

現在の日本では児童養護施設や乳児院などの施設養育と、里親や養子縁組など家庭養育で約45000人の子供が自分の親と離れて暮らしています。

通学が可能な社会的擁護施設

特に乳幼児における集団施設に関してですが、海外の事例を少し紹介させて頂きます。

2009年12⽉に国連総会が決議した「児童の代替的養護に関する指針」が国連で決議されました。

これは社会的養育が必要な場合における、子供の権利を守る上で指針となるものです。

具体的には原則として児童の通常の居住地のできるだけ近くで養護を行うのが望ましいという事や、幼い児童特に3歳未満の児童の養護は家庭を基本した環境を提供すべきなどどいった事です。

海外のイギリスとオランダでの例ですと、今はもう乳児院というものが存在しません。

0才から2才の小さな子供は必ず里親に措置をされます

これは乳児期における集団生活はメリットがほとんどないとされ、親なり里親なり特定の人と過ごしていかないと「愛着障害」が子供よっては発生するとされているからです。

 

愛着障害とは、乳児期に親からの愛情を受けられなかった事による様々な悪影響愛着障害を示す子供には衝動的・反抗的・破壊的な行動が見られる事があり、情愛・表現能力・自尊心・相手に対する尊敬心・責任感などが欠如している場合も多い

この影響は大人になってからも続き、7~8割の人で生涯に渡って影響を及ぼすとも

発達障害と間違えられる事も多く、適切な治療を受けられず苦しんでいる人も

この考え方は欧米では広く認知されており、里親による養育も社会的に確立されています

子どもの権利を第一に考える欧米では、例えばドイツでは年間1万件超イギリスでは年間平均5万件近くの親権停止措置が取られています。

育児の資格が無い親に対しては、直ちに行政措置が取られる仕組みが出来ているのです。

これも全て子どもの権利を守る為です。

これが日本だと100件を下回るぐらいが現状です。

子どもに対する考え方が欧米と日本では全く違うんですね。

ニュースなどで日本の親の「親権」が強すぎると指摘されていますが、こういう実情があるのです。

また日本では児童養護施設出身の子供は大学に進学することが相当難しく、一般的な家庭の子供と比較して大きな教育格差が発生している現状もあります。

 

日本政府においても⼤規模施設よりも⼩規模施設での養育、施設での養育よりも家庭での養育を推進しています。

今後親権を含む里親制度の改善が求められそうです。

 

親権の懲戒権に関しての問題点を取り上げていますで、ぜひこちらもどうぞ!

 

民法822条の親権者権利「懲戒権」は何が問題なのか

2019年6月に、親による子どもへの体罰を禁止し児童相談所の体制を強化する指針を含めた改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が参院本会議で可決成立されました。 一部を除いて2020年4月から施行されます。 最近になり、「親権」や「懲戒権」と言った言葉が頻繁にニュース番組などで取り上げられるようになってきました。 …


一時保護委託を拡大させる事が事態改善のポイント

では一時保護所における子供の処遇改善に向けて、何か方法はないのでしょうか。

現在一時保護された子供を、児童相談所内の一時保護所以外の施設や里親等適切な者(児童委員、保育所の保育士、学校(幼稚園、小学校等)の教員など)に委託する事ができる、一時保護委託という制度があります。

これは児童相談所内の受理会議等で慎重に検討し決定した場合に限ります。

この一時保護委託と一時保護所とでは、子供の処遇にどのような違いがあるのかご紹介します。

 

一時保護所一時保護委託
居住環境閉鎖的で自由が制限された児童相談所内ある程度自由がきく里親もしくは施設内
子供の安全職員が多数居るので安全性は高い安全性は一時保護所と比較して低い
学業学校に通う事は不可、学業の習得は確実に遅れる地域内の里親・施設ならば通常通り通学可能
親への影響親の意向を無視した子供の保護の場合、児童相談所に子供を取られたという偏見の目で周囲から見られる可能性がある。

児童相談所と親とのトラブルも多い。

子供の一時預かりという概念から、子どもにとって通常の生活をすることも十分可能。周囲からのサポートも受けられる。

親の同意を得られやすい。

子どもの安全性に関しては一時保護所が高いですが、それ以外の項目に関しては一時保護委託のメリットが際立つ結果です。

安全性に関しては、一時保護所に缶詰状態にして外部からの接触を必要最低限にした結果でもあります。

その分子供の自由や行動は著しく制限されているので、安全性を重視した結果その他の部分を犠牲にしているのが現状でしょう。

一時保護委託は親の同意も得られやすいのが特徴です。

 

親の同意を得られやすい

児童相談所は嫌だけど、特定の人に子供を預ける感覚の一時保護委託ならまだまし!と親に思ってもらうだけでもいいのです。

子どもにとっても施設の外に行き来できる自由は認められていますし、通学も可能です。

子どもの権利を守る為には、この一時保護委託制度の更なる拡充が必要です。

 

それと同時に、児童相談所や一時保護所の正しい実態を一人でも多くの方に知って頂く事が問題解決の第一歩となります。

全ての子どもに希望がある未来を用意するのは、大人である私たちの責任であり義務だと思っています。


厚労省リーフレット
ぜひお気軽にどうぞ!