2019年1月9日に愛媛県の松山東署管内で発生した盗難事件において、警察官による誤認逮捕が発生しました。
更に今回の問題は、警察官によるあまりにもずさんな捜査や自白の強要の疑い、形だけの再発防止策や組織のトップをすり替えて問題解決を図ろうとするなどあまりにもグダグダすぎる内容なのです。
今まで警察官が密室で取り調べを行う問題点が幾度となく指摘されてきましたが、今回は全く関係無い人を逮捕してしまっただけでなく、裏付け捜査もろくに行われないまま、後日誤認逮捕された女性と同じアパートに住む真犯人の女性が逮捕されて誤認逮捕が発覚するというお粗末ぶりなのです。
ちなみに10月3日に愛媛県警が今回の問題を受けて調査結果の発表と会見を行っていますが、違法性や規律違反は無かったとして捜査員への処分は行わないとしています。
大切な事なのでもう一度言います!
今回の警察官の誤認逮捕問題の経緯と県警が発表した調査結果内容をご紹介すると共に、私たち一般庶民としてどう行動していけばいいのか考えてみます。
愛媛県松山東署の誤認逮捕問題のまとめ
事件の経緯
2019年1月9日 | 松山市でタクシー運転手のセカンドバッグなど5点が盗まれる窃盗事件が発生 |
時期不明 | 松山東署が捜査した結果、ドライブレコーダーに映っていた女が容疑者として浮上。その女が入っていったアパートも特定している。 |
2019年5月 | ドライブレコーダーに映っていた容疑者の女と同じアパートに住んでいる別の女性に対して、松山東署捜査員が事情を尋ねたい旨の書簡を投函(既に別人に対して捜査対象にしている) |
2019年5月 | 全く身に覚えのなかった女性だが、身の潔白を証明する為松山東署に赴く |
2019年6月 | 再度松山東署に赴いて、顔の3D画像撮影やポリグラフ検査を受ける |
2019年7月8日 | 女性を任意同行して、そのまま窃盗容疑で逮捕(誤認逮捕) |
2019年7月10日 | 裁判所が勾留請求を認めなかったので、女性は逮捕された2日後に釈放される |
2019年7月16日 | 誤認逮捕された女性と同じアパートに住む女性が犯行を認めた為、真犯人が逮捕される(誤認逮捕問題が発覚) |
2019年7月26日 | 松山区検察庁が、誤認逮捕された女性を嫌疑なしの不起訴処分とする |
事件の経緯でまず突っ込みたい箇所は、1月に事件が発生してなぜ数か月も放置状態になっていたのかという事です。
ドライブレコーダーに容疑者である女が映っていて、更に住居と思われるアパートも特定できているにもかかわらずです。
よっぽど警察官の方は忙しいのか、窃盗ぐらいではなかなか動いてくれないのか真意は分かりませんが、映像に録画されてるのならすぐにでも捜査できそうな気がするのですが、素人考えなんでしょうかね。
それともう一つ。
無実の女性が誤認逮捕されましたが、裁判所が拘留を認めず女性は2日後に釈放されます。
ドライブレコーダーという決定的とも言える証拠があるにも関わらずです。
裁判所から言わせれば、この時点で窃盗事件の犯人としてはかなり疑わしい点があったと言う事なんですよ。
本当にちゃんと捜査したのか?裏付けをとったのか?と言われているのと同じです。
まあ実際問題、全然捜査できていなかったんですけどね!
誤認逮捕が発覚してからの愛媛県警のドタバタ劇
愛媛県警による誤認逮捕問題が発覚したのが、2019年の7月です。
8月1日に誤認逮捕された女性が、当時の状況や思いなどを綴った手記を弁護士を通じて発表しています。
その手記には、捜査員から自白の強要とも言えるような脅しともとれる言葉で取り調べを受けたとあります。
一方で警察はこの手記の発表を受けたあとに「違法な取り調べという認識はない」とコメントしています。
さてどちらの発言が本当なのでしょうかね??
更に8月6日に、愛媛県警察本部の当時の松下整本部長が「今回の事件では、事件と全く無関係の女性を逮捕してしまったわけであり当事者の女性に誠に申し訳なく心よりお詫び申し上げます」と、誤認逮捕発覚後初めて公の場(愛媛県議会スポーツ文教警察委員会)で謝罪しています。
ただこの松下本部長、女性が手記を発表したことを受け、同日夜に県警本部で報道各社の個別取材に応じているんですが、女性が「自白強要」と訴えた取り調べについて、「ただちにアウトではない」との認識を示しています。
実際このような発言が本当にあったのかどうかは分かりませんが、どちらにしても謝罪が形だけのものだったと白状しているも同然ですよね。
この愛媛県警の今回の問題に関して愛媛県の中村知事は「人生すらも狂わせかねない尊厳を大きく傷つける重大な人権侵害。誤認逮捕された女性に対する誠意ある対応を取り続けてもらいたい」とした上で真相解明と再発防止を県警本部に求めました。
愛媛県の中村知事と言えば、国などに対してもモノ言う知事として知られています。
最近では今治市に建設された加計学園に関する文章を参議院に提出した事で話題になりましたね。
そんなドタバタ劇が続いた結果、9月に人事異動で愛媛県警本部長に神奈川県警から来た篠原本部長が着任します。
神奈川県警も過去にいろいろあったような記憶がするのですが・・・。
新聞記事によると、愛媛県警の篠原英樹本部長が9月9日就任の記者会見を開き、7月に女子大学生を窃盗容疑で誤認逮捕した問題について、「当事者の女性には私としても誠に申し訳なく思っている」と謝罪しています。
おお!今回着任した新本部長には少し期待できるかな・・・と思っていたのですが!
着任早々、今回の誤認逮捕問題を受けて第三者による調査を拒否!!
そして10月3日に県警は、県議会スポーツ文教警察委員会の調査結果を報告しています。
自白の強要を県警が認めるかどうかが注目されましたが、女性の尊厳を著しく侵害した事は認めましたが違法な取り調べとまでは認められなかったとの調査課でした。
「不適切だが違法ではない!!」
どこかで聞いたようなフレーズですね。
ではこの女性の尊厳を著しく侵害した取り調べとはどのような内容だったのか、女性が手記で公表しています。
・二重人格?
・就職も決まっているなら大ごとにしたくないよね
・弁護士に言われたから黙秘するのではなく、自らの意思で話せ
ちなみに調査結果報告後、県警の会見が行われましたがその時のやりとりを一部ご紹介します。
県警回答:全てあった。おおむね間違いない。
県警回答:携帯電話、財布が映像と所持しているもので違っていた。一目見たら違うと分かる。音声に関しては最初に見た捜査員が愛称を聞き間違えた。他の捜査員は先入観があって間違いに気が付かなかった。愛称と名前が一致しないことに関しては、あだ名は名前と一致してないこともあるだろうと判断した。
ていうか、最近の警察の捜査ってこんなにいい加減なものなのかとびっくりするんですけどね。
聞き間違えたとか、先入観で間違えたとか、○○だろうとか・・。
100歩譲ってたまには間違う事もあるのが人間なのですが、そのようなミスや思い込みを防ぐ為に裏付けや根拠が求められるのですがそれも全てスルーされていた訳です。
逆に言えば、こんな捜査で犯人がよく逮捕できるなとある意味感心してしまいます。
今回の愛媛県警の捜査の問題点
捜査員の主観的判断に関して、容疑者として捜査する方針を立てており、犯人ではないかもしれない可能性が考慮されていない |
証拠の裏付け捜査に関しては、ドライブレコーダーに記録された犯人の所持品と女性の財布や携帯電話の特徴に相違する点があったにもかかわらず、裏付け捜査を行っていない |
鑑定結果に対する捜査員の評価に関して、ポリグラフと顔画像鑑定の結果を過大評価して、誤認逮捕した女性が犯人であることの証拠として認識していた |
チェック機能と捜査指揮に関して、初期段階から犯人性の吟味や第三者による犯行の可能性を念頭においた検討がされていなく、適切な捜査指揮が行われなかった。 |
今回全く見ず知らずの女性が誤認逮捕された訳ですが、実は県警は女性を任意同行で逮捕後早い段階で別人の犯行だった可能性に気付いていたとの報道もあります。
誤認逮捕した女性の取り調べを行ったのは一人の捜査員ですから、他の捜査員が見て今回の逮捕がおかしいと思っても当然でしょうね。
そのような警察内部での捜査の流れや、おかしい事をおかしいとチェック指摘できる組織体制が全く構築されていないのでしょう。
愛媛県警が発表した再発防止策
今回の誤認逮捕、そして捜査員による自白の強要が限りなく疑われた今回の問題において、愛媛県警が策定した再発防止策は下記の通りです。
犯人性に関する捜査と裏付け捜査の徹底。捜査の初期段階において、安易に捜査対象を絞り込まず、広く確実に客観的証拠を集める |
捜査幹部によるチェック機能の強化。捜査指揮、捜査管理を徹底するとともに、通常逮捕状請求時における指導教養を徹底 |
警察本部によるチェック機能の強化。本部刑事企画課に報告させ、事前審査を行い、証拠の評価、供述内容の吟味を行うなど指導強化をはかる |
指導教育の徹底。教訓を踏まえ再発防止策の徹底。客観的証拠に基づく、心情に配慮した適切な取り調べを徹底する為、効果的な指導教育を実施 |
〇〇の強化だとか、〇〇の徹底!という言葉が多く並んでいますね。
逆に今までこれらの事を疎かにして捜査していたんか~いと、本当に突っ込みたくなる内容ばかりです。
例えば一番最初の再発防止策の「捜査の初期段階において、安易に捜査対象を絞り込まず、広く確実に客観的証拠を集める」
こんな事は刑事ドラマでさえも当たり前の捜査の基本中の基本だと思うのですが・・・(もちろん私は警察関係者ではありませんよ)
あと、客観的に基づく~とか客観的証拠が~という再発防止策について。
第三者による警察内部への調査を拒否した組織がこのような事を言っても全く説得力がない!!
本当に矛盾だらけでスカスカの再発防止策ですね。
一般企業でこのような再発防止策を考えていたなら、上司から即突き返されるような内容だと思いますよ。
ただ私が思う今回の愛媛県警の一番の問題・・・。
女性を誤認逮捕して不適切な取り調べを行った捜査員に対して、処分が一切ないのはおかしくないですか??
すなわち、愛媛県警として今回のさまざまな問題を問題として捉えてはいないと明言しているようなものです。
私達ができること
現在の刑事裁判制度においては、警察官がある人を逮捕後無実が判明して釈放されてもそれは即違法捜査ではないんですよね。
証拠隠滅の恐れや犯人かどうか疑わしい場合において、ある程度の証拠を元に逮捕するケースも相当数あります。
もちろんある程度の証拠と言っても、それは根拠のある客観的な証拠に基づく必要があるのは当然なのです。
今回はドライブレコーダーの記録という決定的証拠があったにもかかわらず、裏付けも本人との照合もろくに実施されないまま無実の女性が逮捕される事態になりました。
現状の警察の捜査は私達が想像している以上に残念な事も多いと認識しておいた方がいいですね。
普段私たちが行動している時でも、何かトラブルになる可能性がある場合、とりあえずスマホのボイスレコーダーで証拠を残しておく事はのちのち役に立つかもしれません。
そして今回の愛媛県警の、間違いを間違いと認めない組織の怖さ。
第三者による評価や調査を拒む内向きな体制。
組織としての問題点が一気に明るみになってしまったのです。
今回誤認逮捕された被害女性は、誤認逮捕後発覚後に担当刑事と一度だけ面会したようです。
その担当刑事からは「普段通りの取り調べだった」と言われたの事。
それを聞いた女性は、今のままでは同じような事がまた繰り替えされると危機感を示しています。
だからこそ手記を公開したり、10月4日にも弁護士を通じてコメントしています。
誤認逮捕されて執拗な取り調べを受けて嫌な事を思い出す事ばかりだと思うのですが、同じような被害者を出さない為に自らの体験を語るこの女性に本当に頭が下がる思いです。
このような警察組織の問題点ばかりが出てしまう事により、普段真面目に勤務している警察官の方も間接的に被害者となってしまいます。
日本の警察の力は、私は世界と比較してもすばらしい点は沢山あると思っていますし今後も信じていきたいです。
だからこそ、自らの問題点を認めてほしかったですね。