2019年の消費増税と同時にはじまった、キャッシュレス決済のポイント還元制度。
今日本にはさまざまなキャッシュレス事業者がありますが、はたして「○○Pay」は日本で今後進んでいくのでしょうか?
はっきり言ってしまうと、現状の仕組みのままでは海外で普及しているレベルには当分たどり着けないでしょう。
その理由とは何なのか、今回はご紹介します。
参考にした書籍は、日経ビジネス2019年11月18日号です。
ポイントは3つです。
②都市部と地方で、キャッシュレス決済普及率にかなりの差がある
③他国と比較して高い手数料が、普及の妨げになっている
日本でキャッシュレス決済が進まない理由はコレ!
2020年1月現在の各決済サービスの概要と特徴
小売り系
WAON | イオンの電子マネー。イオン系列のほかローソンなどでも使用できる | 利用可能箇所:51万ヶ所 |
nanaco | セブン&アイグループの電子マネー。系列小売店のほか吉野家などでも使える | 利用可能店舗:52万店 |
ファミペイ | 2019年7月にサービス開始、楽天「ラクマ」などインターネット通販サイトでの利用を拡大 |
交通系
Suica | JR東日本の電子マネー。2001年サービス開始、発行枚数7587万枚 |
PASMO | 2007年サービス開始。磁気カード「パスネット」が前身。バス会社も参加。カードの流通数は3000万枚以上だがアプリはない。 |
通信系
d払い | NTTドコモが提供。携帯電話料金と合算して支払える。アプリダウンロード数1000万超え。 | 利用可能箇所:122万 |
au PAY | KDDIが2019年4月に開始。楽天と提携していて、楽天ペイの加盟店でも利用可能 | 登録者数は6000万人突破 |
IT系
PayPay | ソフトバンクグループ系。登録ユーザー1500万人 | 利用可能箇所:150万 |
LINE Pay | LINEのつながりを生かして利用者拡大を図る。LINEは銀行参入も検討中 | 国内ユーザー数:3690万人 |
メルペイ | フリマアプリ「メルカリ」の売上金を使える。利用者数400万人超 | 対応店舗:200万ヶ所(2019年末予定) |
楽天ペイ | 楽天IDと連携。楽天スーパーポイントが利用可能。加盟店向けに決済手数料の無料化などのキャンペーンは展開していない | |
Amazon Pay | アマゾンに登録した住所とクレジットカードの情報で支払うサービス。QRコードを使って実店舗での利用も可能 |
ベンチャー系
Kyash Visaカード | プリペイド式のVisaカード。保有するクレジットカードやデビットカードをアプリに登録して使う。 | |
Origami Pay | もともとECモールを提供し、2016年5月に決済サービス開始。アリペイとも提携していたが、2020年1月にメルペイとOrigami Payの統合計画が発表された | 加盟店:145万店(2019年末予定) |
ゆうちょ Pay | 口座から即時引き落とし、事前のチャージが必要ない。横浜銀行などが参加する銀行Payの利用可能店でもつかえる |
この中でも飛ぶ鳥を落とす勢いなのが、ソフトバンクグループの「PayPay」です。
この1年で最大20%、総額100億円をポイント還元するキャンペーンを計3回実施して、加盟店数、利用者数共急伸させています。
実際に先ほどご紹介した数々のキャッシュレス決済サービスのうち、認知率と利用率は「PayPay」が共に1位です。
利用率に至っては、2001年にサービスを開始したJR東日本「Suica」の30.7%を上回る、37.2%とキャッシュレス事業者としては最後発組にもかかわらず一気に1位まで駆け上がっています。
PayPay社内で「焦土作戦」と呼ばれた100億円(バラマキ!)のポイント還元キャンペーンにより、まさにカネの力で堂々の1位になった訳です。
ちなみになぜ認知率、利用率共に1位なのかというと、多くの店や施設で「PayPay」が使えるからです。
いくら魅力的なキャッシュレスサービスがあったからと言って、それが店で使えないと全く意味がありません。
利用可能箇所をどんどん増やすべく、全国20か所に数千人規模の営業スタッフを配置していると、PayPayの中山社長がコメントしています。
ただ、その中山社長のターゲットは「気にしているのは現金決済、まだまだ現金が強い」と、本当のライバルは他のキャッシュレス事業者ではなく現金を使っている一般人をいかに取り込んでいくかという事でしょう。
これだけ民間業者や国が大盤振る舞いをしているにも関わらず、日本でキャッシュレス決済がなかなか進まない理由とは何でしょうか?
地方の現状「だってここは老人クラブだもの」
2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップは、日本代表チームが大活躍した大会となりました。
そんな大会で盛り上がった岩手県の釜石市。
外国人観光客の方も多かったので、キャッシュレス決済が出来るお店も増えたんじゃないの?と思うかもしれません。
しかし、釜石商工会議所が消費増税前に実施したアンケートでは、「小売り・宿泊・理美容店」143店のうち62店舗がキャッシュレス決済を導入していないと回答
飲食店でも同じような状況で、135店中66店舗が導入してないと答えています。
なぜキャッシュレス決済を導入しないのか雑誌の記者が尋ねた所・・・
・レジは現金を保管する金庫代わりにすぎない
・高齢者は新しいレジを導入しても、操作方法を覚えられない
・そもそも店に来る人がキャッシュレス決済を望んでいない
都市部においては電車や駅や周辺の店などでキャッシュレス決済は当たり前になっており、そうする事で決済時の混雑緩和に役立っています。
対して地方においてはそこまで混雑する事がなく、先ほどの釜石市の例でも年金支給日の15日には銀行から下ろしたばかりの1万円札で会計する人が増えるんだとか。
結局現金決済で困る事がないので、キャッシュレス決済が浸透しないのです。
「○○Pay」を普及すべく、キャッシュレス事業者がいくら初期費用ゼロ!や決済端末の設定不要!と営業アピールしても、見向きもしない店舗も少なくないそうです。
PayPayの中山社長が「気にしているのは現金決済、まだまだ現金が強い」とコメントしているのは、そういう背景があるからでしょう。
では都市部だとかなり進んでいるのかといえばそれも微妙みたいで、今回のキャッシュレス決済のポイント還元サービスは2020年6月までの期間限定なのです。
日経ビジネスが調査した結果によると、ポイント還元サービスでキャッシュレス決済の金額が「増えた」と回答している人は1万人中33.3%だったそうです。
61.6%は「以前と変わらない」そうで、制度が普及するにはまだまだ時間がかかりそうなのです。
さまざまな手数料が高い事が、キャッシュレス決済が進まない大きな理由
キャッシュレス決済の代表と言えばクレジットカードですが、クレジットカードでの支払いを受けた加盟店(お店)はカード会社に加盟店手数料を支払う必要があります。
この手数料が海外と比較してかなり高いのです。
アメリカでは1~3%、韓国では2%前後、中国では1%程なのですが、日本では平均3%もあって中には5~6%になることもあるようです。
手数料だけで加盟店が数%取られてはたまったものじゃありませんよね。
なぜ日本の手数料が高いのかは、クレジット決済の時に関係する事業者が多く、加盟店からの手数料を複数の事業者で分けているのが大きな要因なのです。
ではそれらの事業者を介入しないで決済できるスマートフォン決済アプリではどうでしょうか?
スマホ決済時にまずネットワーク事業者へ支払うネットワーク利用料(1回当たり数円台の前半)が発生します。
そしてスマホ決済の一番の鍵が、銀行なのです。
銀行口座からスマホの決済アプリにお金を入金したときに生じる「チャージ手数料」は、基本的にはスマホ決済事業者が自己負担しています。
2019年にゆうちょ銀行が自前の「ゆうちょPay」をスタートさせた後、実はゆうちょ銀行からチャージ手数料の値上げを多くの決済事業者が打診されたそうです。
なぜここまでゆうちょ銀行を含む金融機関が強気に出られるかというと、お金のスタート地点の「給与口座」を握っているからなのです。
ここを牙城を崩さない限り、スマホ決済事業者は手数料の値上げも飲まざるを得ません。
最近電子マネーによる給与支払いを認めるかどうか国が検討しているようです。
この真意は、銀行を通すことなくキャッシュレス決済口座にお金を貯めておくことによって、高止まりしている手数料を気にすることなくキャッシュレス決済を広めたい決済事業者の思惑があるのです。
ただ現状の労働基準法では原則給与の受け取りは現金の手渡しとされており、例外として銀行口座や証券口座への入金を認められています。
日本が今後本当にキャッシュレス大国を目指していくなら、この電子マネーの給与支払いの全面解禁が大きな注目となりそうですよ。